M&Aといえば大企業の敵対的買収などのトピックが世間を賑わせています。また、近年は後継者不足などが原因で中小企業でも積極的にM&A行われ、アドバイザーとして活躍する仲介会社の業績や事業規模も急激に伸びていると言われています。東証一部上場企業の平均年収ランキングを見ても、TOP10に多くのM&A仲介会社がランクインしており、M&Aに対するニーズの増加が浮き彫りになっています。
本記事ではM&Aの目的や具体的な手法を見ながら、そのメリットや細かいプロセスをわかりやすく解説していきます。M&Aに関心のある経営者やM&A仲介業への転職を考えている方はぜひ参考にしてください。
M&Aとは?
M&AはMergers and Acquisitionsを省略した言葉で、日本語では企業の合併・買収を意味します。自社の事業や経営権を他社に譲渡することで、双方の企業が大きなメリットを得られることから大企業から中小企業まで、多種多様な企業買収が行われています。
買い手側の企業は、新規事業に取り組む際に企業買収によってノウハウや人材を得られるため、少ないリスクで新たな業界に参入できます。売り手側の企業は創業者が売却によって大きな収益を得られるだけでなく、自社が進めてきたサービスを譲渡することで、企業としての価値を拡大することにもつながります。
スキームとは?
M&Aを実行する際は、スキームと呼ばれる豊富な手法の中から最適なものを選ぶことになります。M&Aの目的は企業の規模や業種によって大きく異なるため、それぞれの会社に合ったスキームを利用しましょう。
最も一般的なスキームは合併と買収と呼ばれる2種類の手法で、合併は2つの企業を統合し、1つの企業として運営することです。買収は1つの企業の株式を別の企業が買い取り、経営権をすべて譲渡します。合併と買収以外にも、企業側のニーズに合わせてより細かいスキームが検討されます。
中小企業のM&Aはなぜ増えている?
日本では近年中小企業のM&Aが増えていると言われています。日本経済は少子高齢化の影響で、中小企業の後継者不足問題が深刻化し、廃業を選ぶ経営者が増えています。この問題を解決するために注目を集めているのがM&Aで、大企業が中小企業を買収するだけでなく、中小企業同士が統合し、事業を承継する流れも増えてきています。
企業買収に使われる7つのスキーム
M&Aを実行する際は豊富な買収スキームの中から、それぞれの企業にあった手法を選ぶことになります。本章では買収時に使用されるスキームの中から7種類をピックアップし、それぞれのメリットや特徴をわかりやすく解説していきます。
スキーム1 株式譲渡
株式譲渡は、売り手側の株式をすべて売却し、株主の権利を買い手側に譲渡します。株式譲渡のメリットは経営者が変わるだけなので、買収によって会社の事業に影響がでにくいことです。また、個人が経営する中小企業の場合、株式の売却によって経営者が大きな利益を得られるため、譲渡後の生活費としてまとまったお金を得ることができます。中小企業の事業承継を目的としたM&Aでは最も使われることの多いスキームです。
スキーム2 事業譲渡
事業譲渡は、売り手側の事業の一部を買い手側に譲渡します。事業譲渡のメリットは、買い手側が必要な事業のみを手にいれることができ、売り手側も不必要な事業だけを切り抜いて売却できます。中小企業の買収スキームの中では株式譲渡の次に使用されていますが、株式譲渡に比べると手続きが複雑なデメリットもあります。
スキーム3 株式交換
株式交換は、子会社になる企業の株式を親会社になる企業に譲渡します。株式のすべてを保有する親子会社を作る際に使われるスキームで、資金がなくても支配関係が作れるメリットがあります。株式譲渡との違いは、売り手側が株式を譲渡する際の利益が得られないことです。
スキーム4 株式公開買い付け
株式公開買い付けは、期間、株数、価格を公開し、売り手側の株式売却を促しながら、取引所外株式を買い付けるスキームです。買い手側は、大量の株式をスムーズに買収できるだけでなく、予算が立てやすいメリットがあります。また、予定していた株式を買収できなかった場合は取引をキャンセルできます。しかし、株式の買取にかかる予算が市場価格より高額であることや、競合他社の介入によって買収ができないケースもあります。
スキーム5 会社分割
会社分割は、一つの会社を既存の会社か新設する会社に分割し、権利を分割した会社に譲渡します。会社分割の手法は吸収分割と新設分割の2種類があります。吸収分割は、分割した事業を既存の会社が引き継ぎ、新設分割は分けた事業を新設する会社が引き継ぎます。事業や組織の再編で使われることが多く、経営資源を再分配できるメリットがあります。
スキーム6 第三者割当増資
第三者割当増資は第三者に会社の新株を引き受ける権利を与えます。経営状況が悪い状態での資金調達や、業務提携している企業と良好な関係性を保つ際に使われることが多いです。第三者割当増資を利用する際は、取引先や取引先である金融機関に新株の権利を与える事例が多いです。
スキーム7 経営陣買収
経営陣買収は、企業の経営陣が金融機関から資金調達を行い、既存の株主から株式と経営権を取得します。経営の効率化や後継者問題を解決するメリットがある一方で、経営体質が大きく変わらないため、市場の変化に対しての対応力が衰えてしまうリスクがあります。また、資金調達をするための融資によって経営陣が債務を抱えてしまうことになります。
M&Aのプロセス
M&Aを進めるためには、複雑な工程を長期間に渡って進める必要があります。ここではM&Aのプロセスを準備・交渉・最終契約の3種類の分けてわかりやすく解説していきます。
準備
M&Aを進めていくための最初のプロセスが準備です。M&Aの検討するためには、自社の経営状況や資産を把握する必要があります。また、専門家を抱えていない企業では、複雑な工程を進めるサポートをしてくれる仲介業者と業務契約を行うことも大切です。
検討
自社にとってM&Aが必要かどうかを検討する作業です。実行する目的を明確にすることはもちろん、条件面の希望を細かく洗い出す必要があります。
把握
自社の経営状況を把握する作業です。買収の際の評価額を高めるためには、自社の培ってきた技術やノウハウを洗い出し、会社の価値を見つめ直す必要があります。また、交渉時のトラブルになる債務などの有無についても、しっかりと確認しましょう。
業務委託契約
M&A仲介業社は、準備から最終契約までのプロセスをサポートする専門業者です。社内での検討や把握が終わった後は、仲介業者の選定を行い、業務委託契約を結びましょう。M&Aは専門的な知識や手続きが多いため、信頼できる仲介業者を見つけ出し、最終契約が終えるまでのサポートを依頼しましょう。
交渉
M&Aを進めていく2つ目のプロセスが交渉です。交渉では、買い手側が閲覧する企業概要書などの資料を作成し、買収するためのスキームを決めることになります。買い手側の企業が決まった場合は経営者同士で面談を行い、基本合意までの交渉を行います。M&Aにおいては最も大切なプロセスで、仲介業者のサポートが必要不可欠です。
資料作成
M&Aに必要な資料を作成します。作成する資料は企業が特定できない範囲の情報をまとめたノンネームシートや、買収に興味を持った買い手に対して公開する企業概要書です。また、最終契約までの工程の中で、60品目以上の資料が必要になるため、資料作成のプロセスの中で、準備しておくことが大切です。
スキームの選定
企業を売却する上でどのスキームを使うかを選定します。スキームは多様な種類があるため、仲介業者や財務担当者と綿密に相談しながら、それぞれの会社に合ったスキームを選んでください。
面談
売却を検討する企業が決まったら、経営陣同士が直接面談を行います。それぞれの経営陣が直接顔を合わせて、譲渡後の経営方針や事業展開について面談します。自社の経営状況の中に、相手側が不利益を与える情報がある場合は、面談時にしっかりと伝えることで、契約時のトラブルを避けることができます。
基本合意
面談で売却先との話がまとまったら基本合意書を締結します。基本合意書の作成にあたっては、譲渡する価格などの決定も行います。また基本合意書を締結した後は、デューデリジェンスと呼ばれる企業調査が行われ、買い手側が指定した専門家が売り手側の資産価値やリスクを調査し、最終的な譲渡価格が決定されます。
最終契約
最終契約では、基本合意で決定した内容を確認しながら最終的な合意契約を行います。契約後は経営権の移転や臨時株主総会の実施などの、事後処理を行うことになります。新体制での事業経営はトラブルが起こることも珍しくないため、最終契約後の事後処理も大切なプロセスの1つです。
経営権の移転
M&Aを実行するための手続きを完了させ経営権を移転します。経営権を移転するには様々な手続きが必要であるため、仲介業者にサポートしてもらいながら完了させましょう。最終契約後はM&Aに対して法的拘束力が発生するため、契約内容の変更などはできないため注意が必要です。
事後処理
経営権の移転が完了した後は、事後処理を行います。経営権が変わった企業では、臨時の株主総会はもちろん、定款、代表取締役の変更が必要になることも多いです。これらのすべての事後処理が終了し、M&Aの全工程が完了します。
M&A業界は今後さらに発展していく?
M&Aは大企業の敵対的買収に留まらず、後継者不足に悩む中小企業の事業承継問題の解決として積極的に行われ、その市場規模は年々急速に拡大しています。M&A仲介会社の多くは、中小企業の企業買収についての無料相談を受け入れていることが多いため、後継者不足や事業再編に悩む経営者の方はM&Aを検討してみましょう。
また、金融業界で会計・財務関係の経験や知識が豊富な方は、これまでの経験を活かせるキャリアアップのプランの一つとして、M&A仲介業への転職を考えてみてはいかがでしょうか。