日本では中小企業を中心にM&Aを行う企業が増えていると言われています。M&Aは企業買収や合併を指す言葉ということは、多くのビジネスパーソンが理解していますが、具体的な流れまでは浸透していないと言われています。本記事では、経営者が仲介会社のアドバイザーに相談してからM&Aがクロージングするまでの全ての流れをわかりやすく解説していきます。
M&Aの流れ
M&Aは中小企業の事業継承問題を解決するために、積極的に行う企業が増えています。しかし、日本の経営者の中ではまだまだM&Aに対する認知度は低く、具体的な流れを理解している人は少ないと言われています。
M&Aが検討されてから統合までの全ての流れが終了するには、大きく分けると10のプロセスがあります。本章ではそれぞれのプロセスの要点を絞りながら、具体的な流れについて解説していきます。
目的を決める
M&Aを始める前に具体的な目的を決める必要があります。売り手側はどういう目的で企業を売却するのかを明確に定めなければ、相手側との条件交渉なども難しくなってしまいます。M&Aの目的や戦略を決める際は経営者の要望だけでなく、M&Aに関する専門的な知識が求められる場合も多いため、仲介会社や金融機関といった専門家への相談を検討しましょう。
相談
M&Aを具体的に進める際は仲介会社と業務委託契約を結ぶ必要があります。仲介会社との契約アドバイザリー契約をと呼ばれ、M&Aに関わるすべての相談やアドバイスを行なってもらいます。仲介会社とのアドバイザリー契約はそれぞれ手数料が異なるため、相談前に確認を行いましょう。
また、アドバイザリー契約と同時に秘密保持契約を締結する必要があります。秘密保持契約は、M&Aに関する検討や交渉を行なっている情報を漏洩させないための契約です。M&Aの情報が外部に漏れると売り手側に不利益が生じることも珍しくないため、必ず契約を行なってください。相談の際は自社の情報や資料を仲介会社に提出する必要があります。
提出する資料に虚偽の報告があると、後々トラブルにつながるケースもあるため、必ず正しい情報を提出しましょう。仲介会社に相談するまでのプロセスは売り手側も買い手側も大きな相違点はありません。
価格の検討・資料の作成
売却額の検討や資料の作成を行います。検討のプロセスでは売り手側の売却価格を具体的に算出することになります。企業価値の算出方法は依頼する仲介会社や担当する専門家によって異なりますが、豊富な評価方法の中からそれぞれの企業に合わせた方法を用いることになります。
これと同時に買い手側の企業に提示することになる企業概要書を作成します。企業概要書は事業の内容や財務状況をまとめた資料で、お互いが交渉先の企業に提出するため、買い手側も作成する必要があります。企業概要書を作成する時点では、秘密保持の観点から企業名などは伏せられています。
選定と交渉
M&Aに使用する資料がまとまったら交渉先となる企業を仲介会社と一緒に選定します。選定する際は仲介会社が自社の豊富なネットワークを活用し、条件に合わせた候補を提案してくれるケースが多いです。M&Aの相手先となる企業が見つかった際は経営者同士での面談を行います。
M&Aは売り手側も買い手側も企業の将来を大きく左右することになるため、経営者同士が顔を合わせて面談を行うことがほとんどです。トップ面談を終えてM&Aを行う意思がある場合は買い手側から売り手側に対して意向表明書を提出します。意向表明書を提出すると買い手側が買収に対して前向きな気持ちを伝えることができるため、交渉を円滑に進めることができます。
基本合意書の締結
M&Aに関する基本合意書を締結します。基本合意書では使用するスキーム、取引価格、独占交渉権などの確認がされますが、内容の多くには法的な拘束力はありません。最終的な合意は次のプロセスで行うことになるデューデリジェンスで取引価格やM&Aの実施の可否が決められた後になります。
デューデリジェンス
デューデリジェンスでは買い手側の企業が売り手側の企業に対して企業監査を行い、大きな問題やトラブルがないかをチェックします。監査の項目は財務・法務関係はもちろん、社内のトラブルや報告されていない債務の有無なども含みます。
デューデリジェンスは専門知識が必要であることから、買い手側が業務委託している税理士や公認会計士といった専門家が担当することが多いです。デューデリジェンスの項目や回数はそれぞれの企業によって異なりますが、統合のトラブルを防止するためにも複数回行うことが好ましいです。
最終合意確認
最終合意確認では、基本合意書の中身とデューデリジェンスの結果を考慮しながら最終的な条件交渉を行います。取引金額はもちろん、従業員の待遇に関する交渉などもここで取り決めが行われます。最終交渉の際は仲介会社の意見を聞きながら、経営者として自社に対する要望を可能な限り伝えましょう。
最終契約
最終契約の締結を行います。最終契約書を締結すると法的拘束力を持つことになるため、契約内容の変更や破棄ができなくなります。最終契約の内容が自社の希望するものとかけ離れていた場合はここでM&Aを中止することもできます。
クロージング
クロージングでは最終契約書に書かれている内容をもとに株式、従業員、設備などの統合を行います。クロージングはM&Aの中でも非常に複雑で、様々なトラブルが考えられるため、仲介会社のアドバイザーにサポートをしてもらいながら、事前に計画書を作成しておきましょう。また、クロージングを実行する際は買い手と売り手の双方が協力して進めることも大切です。
統合
統合はM&Aによって一つになった企業の機能や従業員を統一するプロセスです。統合では経理やシステムといった機能面と、従業員や社風といった人的な統合の2つがあります。特に従業員や社風を統合させるには長い日数がかかると言われています。仲介会社の中には統合における従業員のメンタルケアをサポートしてくれる企業もあります。
M&Aの流れの中で大切なポイント
M&Aは相談から統合までの流れの中で、いくつかの大切なポイントがあります。特に目的と戦略の策定や専門家の選定は売り手、買い手のどちらの立場にたっても大切です。また、売り手と買い手でそれぞれ重要度が異なるプロセスもあります。
売り手側で大切なプロセス
売り手側のM&Aでは、相手先の選定や条件交渉はもちろん、情報の管理も大切と言われています。また、目的や具体的な戦略がまとまりきっていない状態でプロセスを進めると、M&Aが円滑に進まなくなるリスクもあります。ここではまず売り手側が大切にしたいプロセスについて解説していきます。
目的と戦略
M&Aを成功に導くためには相手企業との交渉が鍵を握ります。交渉を進める上で売り手側のの目的や戦略が定まっていなければ、自社にとって不利な条件を提示されてしまう可能性があります。そのため、M&Aを進める前に仲介会社や専門家と相談を行い、具体的な目的と戦略を必ず組み立てておきましょう。
仲介会社の選定
M&Aをサポートしてもらう仲介会社にはそれぞれ特徴があります。仲介会社には企業の規模はもちろん、業界や地域に特化した会社も多いため、自身の会社のニーズに合わせて業務委託する会社を選定するとより円滑にM&Aを進められます。
条件
売り手側は売却時の取引金額や従業員の待遇といった条件も大切です。しかし、条件にこだわりすぎた結果M&Aが成約できないことや、交渉が進まないという事例も少なくありません。条件を考える際は譲れない条件と妥協できる条件を事前にアドバイザーと相談し、明確にしておくことも大切です。
情報の管理
売り手側の企業はM&Aに関する情報管理を徹底する必要があります。M&Aの情報は、従業員や取引先などに知られると離職や取引の中止といった大きなトラブルに発展する可能性があります。また、上場企業の場合は株主や株価にも大きな影響を与えてしまいます。仲介会社との秘密保持契約はもちろん、社内での情報管理についても徹底してください。
買い手側の大切なプロセス
買い手側のM&Aでは買収先の選定やデューデリジェンスが大切と言われています。買収先の選定やデューデリジェンスを充分に行わずにM&Aを進めると、統合後の大きなトラブルにつながることもあります。また、M&A後に戦略通りの利益をあげるためには、統合も大切です。
買収する企業の選定
買収する企業を選定する際は仲介会社が自社のネットワークから選び出した具体的な候補の中から選ぶことが多いです。しかし、候補の中から企業を選定する作業で判断を間違えると、狙い通りのM&Aを実行できなくなってしまうこともあります。そのため、買収する企業を選定する際は、自社の経営者や担当者はもちろん、外部の専門家からアドバイスをもらうことも大切です。
デューデリジェンス
M&Aで企業を統合する際は資産や従業員だけではなく、負債なども受け入れることになります。売り手側の書類が正しければ問題ありませんが、隠れた債務などが発覚した場合は、最終契約後に大きなトラブルになることもあります。そのため、買い手側は監査経験が豊富な士業事務所などに外務委託を行い、デューデリジェンスに対するアドバイスを受けることも大切です。
統合
買い手側は買収した企業を統合するプロセスも大切です。システムや従業員の統合がうまく進まなければ、M&Aによって期待していた利益をあげることは難しくなります。統合を素早く実行するためには、仲介会社のサポートを受けることはもちろん、経営陣が現場に出向き積極的に統合を進める必要があります。
M&Aを成功させるには専門家の力が必要不可欠!
M&Aを検討している経営者は相談から統合までのすべての流れを事前必ず学んでおきましょう。M&Aの流れを見ていくと、戦略の立案、企業の選定、デューデリジェンス、統合といった様々なプロセスで仲介会社や専門家の力を借りる必要があります。仲介会社や専門家への業務委託には手数料がかかってしまいますが、より良いM&Aを実現するには必ずサポートをお願いしましょう。