M&A業界で働くためには国家資格や民間資格は必要ありません。しかし、転職する人の多くは、会計・財務・税務などに関わる資格を持っている人が多いです。これはM&Aの実務においてこれらの知識が求められることが多く、転職活動が有利なだけでなく、転職後の業務においても同様のスキルが求められるからです。
また、実際に顧客となる経営者との信頼関係を築きあげるためにも知識やスキルを資格として取得するメリットがあります。本記事では資格の重要性を見ながら、具体的に必要となる民間資格と国家資格について詳しく解説していきます。M&A業界への転職を考えている方はぜひ資格の取得を検討してみましょう。
M&A業務で資格は必要?
M&Aの実務や取引をサポートするために必要な専門資格はありません。M&A仲介やアドバイザリーとして活躍するには専門の国家資格を取得する必要がないため、経験や知識があれば誰でも業務に携わることができます。
とはいえ、企業のM&Aに携わって実務を進めるには会計・財務・税務などの専門知識が求められるケースがほとんどです。また、統合に向けて譲渡手続きを進めて行く中でトラブルが起きた際は、弁護士や税理士などの力を借りることになります。
資格を取得するとスキルが身につく
M&A業界への転職を考えている方は、知識やスキルを身につけるために資格取得をおすすめします。M&Aのサポートを行うためには、様々な専門知識が求められるため、実務に必要なスキルを身につけるためにも資格取得が一番の近道になります。
近年は民間資格も増えており、筆記試験を行うだけでなく、業界歴の長い専門の講師が講義を行うものもあります。民間試験は国家資格に比べると合格のハードルも高くなく、仕事や転職活動と両立しながら、より実践的なスキルを学ぶことができます。
経営者からの信頼関係を築ける
専門資格を取得すると企業買収を検討する経営者との信頼関係を築きやすいです。企業側がアドバイザーへの依頼を検討する際は、民間資格や国家資格の取得者の方がより円滑に業務を進めることができます。特に税理士や弁護士といった国家資格の取得者は売り手の価値を分析・調査する際に企業側が頼らざるをえないことから、非常に重宝される資格といえるでしょう。
また、60歳以上の中小企業の経営者は、資格やスキルの成熟度をわかりやすく示すことができる資格に対しての信頼度が高いため、資格を取得することによって案件が獲得しやすいメリットもあります。
必要な民間資格は?
M&A業界で働くためには、自分が身につけている知識やスキルを認知してもらうためにも民間資格を取得することが好ましいです。民間資格は国家資格に比べると取得難易度が低いとされており、知識やスキルが乏しい人が学ぶためにも最適と言えます。本章では民間資格の中から、業界内での認知度が高いものを紹介していきます。
M&Aスペシャリスト
日本経営管理協会が認定する資格です。M&Aに関する知識はもちろん、実務経験も豊富なエキスパートであることを認める資格です。講師は業界で活躍する現役の人材が勤め、実務に関する様々な講義を行います。資格を取得した後に参加できるイベントもあるため、業界内の様々なノウハウや知識を学ぶことができます。
取得する講座は開催されてはいるものの資格取得の難易度が高く、選択問題や論述問題を60%以上正解する必要があります。
M&Aエキスパート
東証一部にも上場する業界最大手の日本M&Aセンターと金融財団事情研究会が共同で認定する資格です。基本的な知識やスキルを得ることを目指した資格であるため、取得難易度は低めで、事業承継シニアエキスパートやM&Aシニアエキスパートといった上位資格も用意されています。
講師による講座などは用意されていませんが、受講資格も求められないため、M&A業界への転職を考えている方の最初のステップとしておすすめです。
M&Aアドバイザー
日本M&Aアドバイザー協会が認定する資格です。資格を取得するためには講座の受講と審査に合格する必要があります。資格を取得した人はJMAAの正会員として認められるため、同社が主催するイベントなどにも参加できます。
イベントでは業界に携わる多くの正会員が集まるため、様々な人脈やノウハウを共有できます。審査の合格基準は明確になっていませんが、エキスパート認定資格に比べると難易度が高いです。
事業承認士
事業承継協会が認定する資格です。様々な業務の中でも事業承継に特化しており、求められる専門知識を学べます。また、資格を取得することで、事業承継センターから案件を紹介してもらえるといったメリットもあります。試験を受講するには税理士、弁護士、行政書士、司法書士、公認会計士といった国家資格が必要ですが、資格の取得難易度自体は高くないと言われています。
必要な国家資格は?
M&A業界では財務・会計・登記などの専門知識が求められます。特に、売り手企業の調査・分析や契約書類の作成などでは、国家資格を取得した専門家の力が必要になります。そのため、国家資格の取得者を求める企業の声は多く、転職活動を行う上でも非常に有利とされています。本章では業界で必要とされる国家資格について詳しく見ていきます。
公認会計士
売り手企業の調査・分析はもちろん、統合計画や企業戦略といった総合的なサポートを行います。特に仲介会社では公認会計士が活躍している事例が多く、企業側からの信頼関係も築きやすいです。公認会計士の試験は財務・会計・監査などを中心とした短答式試験と論文式試験の2つを合格する必要があり、国家資格の中でも最も難易度が高いと言われています。
税理士
税務処理や税金対策といった、税務全般のサポートを担当することになります。税理士は税務全般だけでなく、会計に関しての知識も豊富であるため、企業価値を算出する際にも活躍できます。税理士の試験は、簿記、財務、税関係の全11科目の中から5科目の合格が必要とされ、取得難易度は高いとされています。合格した科目については、翌年以降も有効になるため、5年以上の年月をかけて取得する人も多いです。
弁護士
基本合意や最終契約などの工程で、重要な契約を行うため弁護士の力が必要です。弁護士は民法や会社法などの知識に長けているため、契約書類を作成する際に必要な資格です。また、M&Aを進める上で起きたトラブルの相談や解決もできるため、リスクを軽減する効果もあります。
弁護士資格を取得するためには司法試験と呼ばれる短答式と論文式の試験を合格する必要がありますが、その難易度は非常に高いです。また、司法試験を受験するには、法科大学院を修了するか予備試験を合格する必要があるため、国家資格の中でも難易度が高いです。
中小企業診断士
中小企業がM&Aを進める際は中小企業診断士が活躍する機会が多いです。中小企業診断士は中小企業の経営指導や診断を主な業務として行うため、統合後の企業のアフターケアを担当します。統合後の企業は経営陣だけでなく、従業員のメンタルケアが必要不可欠であるため、事業を進めていくための悩みを診断士がヒアリングしつつ、徐々に新しい企業の風土を浸透させることができます。
中小企業診断士は筆記と口述の試験だけでなく、実務補修や実務従事といった実務試験もあり、2回の筆記・口述試験を合格した人が、それぞれ15日以上の実務補習と実務従事を行います。筆記試験の合格率はそれぞれ20%程度とされており、非常に難易度の高い試験です。
ファイナンシャルプランナー
M&Aは税務から法律までの幅広い知識や経験を求められることからファイナンシャルプランナーの資格も有効とされています。ファイナンシャルプランナーは、税金だけでなく、保険や年金の知識も身につけられるため、様々な業界で活躍できます。等級は1〜3級までありますが、2級以上は転職活動でも有利になると言われ人気を集めています。
合格率は3級が70%、2級が30%前後とされており、国家資格の中では難易度が低めですが、1級に関しては国内のFP資格の中で最高難易度と言われています。また、民間資格のCFPとAFPも存在し、FP2級以上を有している方が認定研修を修了することでAFPを取得できます。
CFPはFPの国際ライセンスに匹敵する資格で、AFPの資格取得者のみが試験を受けることができます。士業に比べると難易度は簡単と言われますが、2級以上は長い期間をかけて資格取得する事例が多いです。
M&A業界に転職するためのおすすめの資格は?
M&A業界への転職を考えている方におすすめの資格は、民間資格のM&Aスペシャリスト、M&Aエキスパート、M&Aアドバイザーの3つです。民間資格はM&Aに関する専門知識を厳選して身につけられることから、転職の採用試験が有利に進むだけでなく、転職後の実務でも大きな力を発揮します。
特にM&Aエキスパートは段階に分けて難易度が異なることから、初めて転職する方も段階的なスキルアップが可能です。国家資格については取得すれば転職活動で大きく有利になりますが、現職の業務や転職活動を進めながらの資格習得は非常に難易度が高く、長い時間と努力が必要です。
もちろん、既に公認会計士や税理士資格を取得している人材は、転職する際の採用試験でも大きな武器になるでしょう。
M&A業界への転職を考える際は資格の取得も大切!
M&A業界は中小企業の事業承継に伴うニーズの増加で、業績を大きく伸ばしている会社が多いです。そのため、社員に対しての破格の年収を提示していることから、金融業界はもちろん、様々な業界からの転職先として人気を集めており、その採用の倍率と難易度は年々高まっていると言われています。
士業などの国家資格を所持していない方はM&Aエキスパートなどの民間資格を取得し、M&Aに必要な知識を段階的に学んでいくと、転職活動が優位に進められるだけでなく、転職後の実務活躍するスキルを身につけられるでしょう。