M&Aは、企業戦略の一つとして日本国内でも広く認知されており、大企業はもちろん、中小企業でも活発に行われています。特に中小企業のM&Aは新規事業の開拓といった成長戦略はもちろん、後継不足の解決策として大きな注目を集めており、年々その件数を増やしています。
本記事では日本国内でも活発化しているM&Aの具体的な成功事例を見ていきます。日本国内の大企業の事例はもちろん、身近な中小企業や国境を超えた事例を参考にして自社のM&Aを検討してみましょう。
世界全体のM&A市場
日本国内では大きく件数を伸ばしているM&Aですが、世界に目を広げてみるとどうでしょうか。アジア太平洋エリアではこれまでM&Aが活発に行われていましたが、コロナウイルスの世界的蔓延が起きた2020年以降は件数が20%ほど減少していると言われ、大きな影響を受けています。
しかし、世界全体で見るとM&Aの総額は2021年のデータで5兆8000億ドルとも言われ、コロナ禍の影響を受けた2020年に比べると大きく回復している見通しです。このように日本国内に限らず、M&Aは世界各国で活発に行われていることがわかります。
日本企業のM&A事例
日本では大企業のM&Aが大きな話題を集めることが多いです。特にインターネットや通信サービスで2000年初頭に台頭した楽天グループやソフトバンクグループはM&Aの成功事例として度々名前をあげられています。本章では楽天やソフトバンクの具体的な成功事例をわかりやすく解説していきます。
楽天
楽天グループは東証プライムに上場する日本を代表する企業で、インターネット関連サービスを中心に様々な事業を展開しています。楽天グループは経営戦略の一つとしてM&Aに重きを置いており、2000年代前半からIT企業を中心としたM&Aを進めて事業拡大をしてきました。後に楽天トラベルとなる旅の窓口は当時国内で最大規模の宿泊予約サイトでしたが、2003年に親会社のマイトリップネットが楽天に企業買収されました。
また、2004年にはDLJディレクトSFG証券を企業買収し、現在の楽天証券に名称を変更することで、グループ会社としてより大きく事業展開していくことになりました。近年は海外企業とのM&Aを積極的に行なっており、日本を代表する企業として今後もワールドワイドに事業を展開していくことになるでしょう。
ソフトバンク
ソフトバンクグループは東証プライムに上場する日本を代表する企業で、携帯電話などの通信サービスを中心に様々な事業を展開しています。楽天グループと同様に数多くのM&Aによって成長した企業と言われています。2004年には当時の日本を代表する通信事業者であった日本テレコムとM&Aを行うことで、同社の柱となる通信事業を軌道に乗せることに成功しました。
2006年には当時の日本企業の最高額となる約1兆7500億円で英国のボーダフォンを買収し、日本を代表する企業へ成長しました。ソフトバンクはこの後も数々のM&Aを実施し、その売り上げは約20年で80倍以上になったと言われ、M&Aで売り上げを伸ばした企業の中では国内でもトップクラスと言われています。
Zホールディングス
Zホールディングスはソフトバンクグループの傘下に入るインターネット関連会社です。日本のネット検索の元祖とも呼ばれるヤフーを中心に、傘下にはファッション通販のZOZOや銀行業のPAYPAY銀行などを抱えます。Zホールディングスの近年のM&Aで最も注目を集めたのが、メッセージの送受信を行うSNS事業で大きな国内シェアを誇るLINEの買収です。
ZホールディングスのLINE買収を巡っては、親会社のソフトバンクを中心に複数の企業が関係する複雑なスキームが使用されたころから、M&A業界内でも大きな話題となり、2021年の3月に正式な経営統合を完了しました。
中小企業M&A事例
中小企業のM&Aでは、私たちも頻繁に利用する店舗や事務所が売却・買収される事例も多いです。特に個人オーナーが一人で経営する小規模店舗などでは、300万以下の比較的安価な金額で企業買収が行われるケースも珍しくありません。本章では売り手と買い手の二つの立場から見た中小企業のM&Aの成功事例をわかりやすく解説していきます。
士業事務所を売却した事例
売り手である士業事務所の男性経営者は年齢が60歳を迎え、自身の体調が思わしくないことから、新しい後継者を探していました。しかし、2人の息子はそれぞれ仕業ではない道に進んでいたため、事業承継を目的とした企業売却を決めました。
企業売却を進めるにあたってM&A仲介会社に業務委託を行うと、大手士業会社がすぐに買い手の候補として浮上したため、直接経営者同士で面談を行いました。経営者同士の面談では事業戦略の一致だけでなく、相手側の士業に対する強い想いを聞くことができたため売却を決定しました。
化粧品店を買収した事例
買い手である若い男性経営者は多角的な事業展開を目指し、女性オーナーが経営する化粧品店の買収に踏み出しました。M&Aを打診した際は若い男性経営者では接客が難しいという理由から交渉が難航しましたが、従業員として女性スタッフを雇用していることをPRすることで、前向きな返答をもらえることができました。
女性オーナーの希望売却価格は100万円でしたが、在庫費用が含まれていなかったことから追加で50万を支払うことで、無事契約合意となりました。店舗を統合する際は、男性経営者はもちろん、店頭の売り場を担当することになる女性スタッフが現場まで出向き、無事引き継ぎを完了しました。
ハンドメイド小売店を買収した事例
自分たちの力で新規事業を育てたいと考えるベンチャー企業の事例では、100万円以下の予算で買収ができる店舗を探していました。候補として浮上した店舗は顧客ニーズの減少によって売却先を探していた大手企業で、担当スタッフの技術が非常に高いことから買収を検討にすることになりました。
取引金額を決める際は、売り手側の経営者の要望である商業施設に支払っている固定費を肩代わりするというもので、それ以外のコストは一切かからない無償譲渡で譲り受けることができました。
世界企業のM&A事例
日本企業のM&Aの事例を見ていくと、国外への事業拡大はもちろん、国内事業の強化を目的とした海外企業の買収を行なったケースも珍しくありません。国外の企業を買収する事例では取引の金額が1000億円を超える事例も多く、大きな話題を集めることになります。本章では国境を超えたM&A事例としてセブン&アイと旭化成の事例を見ていきます。
セブン&アイ
セブン&アイは日本を代表するコンビニエンスストア、セブンイレブンを抱えるコンビニ業界の最大手です。セブン&アイのM&Aの事例では、国内のコンビニ市場が飽和状態にあるという背景があり、事業の拡大を図るために北米市場にある小売業の買収を試みることになりました。
買収先のスピードウェイはアメリカのオハイオ州に本社がある小売業で、コンビニエンスストアや燃料小売を主な事業としています。買収額は約2兆2000億と言われ、セブン&アイの子会社である米国法人はすべての株式を取得しています。
旭化成
旭化成は住宅、繊維、建材を中心に、医療機器の開発にも力を入れる大企業で、国内外に事業所を拡大しています。旭化成の買収先はアメリカのセージ・オートモーティブ・インテリアズで、車内インテリアを中心に事業を展開しており、織物・編み物で作られた車内シートは世界一のシェアを誇ります。
旭化成のM&Aでは繊維事業の拡大が背景にあり、今後成長が期待する自動車産業との関係強化を目指すために、自動車内装を手がけるためのノウハウや素材を手に入れる必要があったからです。また、旭化成とセージ・オートモーティブ・インテリアズは取引先として古くから関係性があったため、交渉開始してから約1年後に1470億円ですべての株式を取得することになりました。
M&Aの失敗する理由は?
M&A事例として大企業・中小企業・国外の3種類の具体例を見てきました。しかし、M&Aを実行した企業の中には買収後の業績が伸びないだけでなく、大きな不利益を被ってしまう事例もあります。本章では買い手側の立場から見たM&Aが失敗する理由を見ていきます。
分析・調査が不十分
売り手側の企業の分析や調査が不十分であるケースでは、買収後に業績が伸びない事例も非常に多いです。買い手側は売却する企業の事業計画はもちろん、業界や市場の動向などにも注意しながら売却を検討しなければ大きな損失を被ってしまうことがあります。
海外での商慣習
海外の企業を買収するケースでは、買収後の事業が全く進まない事例もあります。海外での事業展開はそれぞれの国で規制や認可が異なるだけでなく、商慣習が大きく違うことも多いです。特に商慣習については事前に現地での調査を行わずにM&Aを進めた結果、統合後の事業が全く機能しないこともあります。
環境の変化による従業員の離職
M&Aで買収した企業の従業員が離職してしまった場合、業績に大きな影響がでることがあります。売り手側の企業の業績は既存の従業員が留まることが前提の試算になっているため、事業の中核を担う人材が離職してしまえば大きく業績を落としてしまうことがあります。
特にM&Aによる経営陣の変更は、従業員が転職を考える大きな要因にもなりかねないことから、統合後のメンタルケアなどにも十分な配慮が必要です。
成功事例を参考にM&Aを検討しよう!
M&Aは日本国内だけでなく、世界中の多くの企業で実施されていることから、様々な成功事例があります。特に日本国内に目を向けると数千億円規模の大規模な企業買収から、個人店舗の売却まで様々な事例を見ることができます。
M&Aを検討している経営者の方は、同業他社はもちろん、自社と同じスケール感で事業を行なっている企業の成功事例を見ながらM&Aを検討してみてください。また、M&A業界への転職を考えている方も様々な事例を見ながら、使用されている具体的なスキームや経営戦略を学びましょう。