日本の中小企業は創業者の高齢化の影響が顕著に現れており、大切に育ててきた企業の事業を継承するためのM&Aが近年増加傾向にあります。また、2019年以降はコロナ禍で経営が不安定になった企業も多く、大企業に吸収合併される選択肢を選んだ経営者も多いです。
中小企業のM&Aは、コロナ禍の影響でやや件数が伸び悩んでいましたが、2021年以降は再びこれまでと同じ水準に回復していると言われています。それに伴って仲介会社も数を増やしており、優秀な人材を獲得するために積極的に中途採用を行なっています。
本記事では、M&Aコンサルタントの業務内容を見ながら、業界の市場規模、求められる人物像などについてわかりやすく解説していきます。
コンサルタント・アドバイザーの仕事内容
M&A業界の中途採用では売り手と買い手のどちらか、あるいは双方の仲介の業務を行うコンサルタント職の採用が最も多いと言われています。コンサルタント職は企業によってはアドバイザーと称されることも多いですが、今回の記事では同じ意味を持つ職種として扱います。まずはコンサルタントが売り手側の売却をサポートするプロセスを見ながら、その業務内容について解説します。
案件の獲得
コンサルタントはまず売却を検討している企業の案件の獲得を行います。獲得する案件については自社のネットワークを頼りに経営者に営業をかけ、売却・合併に関する提案を行います。企業の売却を検討してもらうことになった経営者とはアドバイザリー契約を締結し、正式にコンサルタントとしての業務がスタートします。
業務委託を開始する際は同時に、売り手側に関する情報を外部に漏らさないために秘密保持契約を締結することになります。
相手先企業の選定と交渉
相手先の企業を選定する際は売り手側の企業概要書を作成し、条件に合う企業を探すことになります。買い手候補となる企業を見つけた際は売り手側と同様にアドバイザリー契約と秘密保持契約を締結し、双方の取引を仲介しながらサポートすることになります。
交渉ではまず経営者が直接話し合いを行い、それぞれの企業が希望する条件を話し合います。条件交渉がまとまった際は基本合意契約書を締結し、成約に向けた最終条件を詰めていくことになります。
買収査定
売り手側と買い手側が基本合意書を締結したあとは、売り手側の企業に対してデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスは、売り手側の企業の財務・法務・税務や社内のトラブルまですべてを分析・調査することになります。分析・調査では税理士や弁護士などの専門家の知識が必要であるため、コンサルタントだけでは業務を賄いきれないケースも多いです。
そのため、提携する士業事務所などに業務委託することになります。デューデリジェンスが完了したら、改めて譲渡契約書の最後の条件を交渉することになります。統合に向けたプロセスでは様々な資料や契約書を作成する必要があるため、こちらも専門家と連携しながら必要な資料を作成していきます。
クロージング
売り手側と買い手側の企業が契約書の内容に基づいて株式を引き渡し、統合を行います。クロージングのプロセスでは株式や現金だけでなく、従業員や社内のシステムの統合を行う必要があります。コンサルタントの多くは、統合後の企業が安定して事業を行えるまでをサポートすることが多いと言われています。
M&A市場
M&A業界では売り手側の規模に応じて、担当する会社が異なると言われています。仲介者はもちろん、監査法人やインターネットサービスなどの様々な企業があるため、転職を検討する際は大まかな市場についても理解が必要です。
1億円未満の取引
売り手側の売却額が1億円以下のケースでは、仲介手数料などのコストを抑えられるインターネットサービスが使われることが多いです。インターネットサービスの運営会社は業界の中では社歴の浅いベンチャー企業が多く、転職先としても検討しやすいです。
1〜100億円の取引
売り手側の売却が1〜100億円以下のケースでは、仲介会社や地方の金融機関が案件を担当することが多いです。仲介会社のコンサルタントが最も担当することになる市場で、近年成約件数が大幅に伸びていると言われています。また、転職の観点から見ても非常に人気が高く、大手の仲介会社には各業界で結果を残した優秀な人材が集まります。
100億円以上の取引
売り手側の売却額が100億円を超えるケースでは、国内の大手金融機関や監査法人が案件を担当することになります。100億円を超える企業買収は世間から注目を集めることも多く、業界内でも経験が豊富な専門家を有する企業がサポートを行います。
大手金融機関や監査法人のM&A部門は、仲介会社で優秀な成績を残した人材のキャリアアップ先として検討されることが多いです。
コンサルタントに適した人材とは?
活躍するコンサルタントは、案件を獲得するための営業力と、会計・財務関係の実務的なスキルが必要です。そのため、前職で金融業界を経験している人材も多く活躍しています。本章ではコンサルタントに求められる能力と、転職に成功した人材の職歴について事例を紹介していきます。
コンサルタントに必要な経験
コンサルタントの多くは、経営者に対しての営業や、双方の間に入って交渉を行い、案件を成約に導きます。そのため、前職で中小企業の経営者への営業経験が豊富な人材が重宝されています。
仲介会社の採用要件の事例を見ていると、前職での営業経験が2年以上でかつ、経営者や上層部との商談経験がある方を歓迎するとあります。また金融業界に限らず、大手商社・メーカー・コンサルティング会社からでも高い営業実績をある方は採用されているようです。
また、採用された人材の経歴を見ると、営業成績で社内の上位10%に入っている人材が多く、大手企業の中でもトップクラスの実績が必要と言えます。
M&A業界に転職する前に知っておきたいポイント
異業種からM&A業界に転職する方は、労働時間や年収についてのたくさんの疑問があると思います。特に年収については他業種に比べると非常に高額に設定されています。本章では転職する際に誰もが感じる業界のポイントについてわかりやすく解説します。
年収はなぜ高い?
M&A仲介業は他の業界に比べると収益性が高いと言われており、人件費にかけられる比率が高いからです。また、一つの案件を成約まで導くことで1億円を超える手数料が発生する事例も多いため、少しでも優秀な人材を集めるためにも高い報酬を用意している企業が多いと言われています。
コンサルタントの年収は基本給とは別に、成約した取引額に応じたインセンティブが用意されていることがほとんどであるため、それぞれの能力や実績に応じた金額が支払われる給与体系になっています。
労働条件
コンサルタントの労働時間は1日8時間、完全週休2日制を導入している企業が多いとされています。また、大手仲介会社の中にはフレックス制度を導入している企業も多く、自らの労働時間を自由に調整できるケースもあります。
もちろん、案件の成約のプロセスの中で、突発的な業務や経営者とのやりとりは十分に考えられるため、すべての業務が労働時間内の終わるわけではなく、一般的な営業職の労働時間を想像すればイメージがつきやすいです。
転職を考える際の注意するべきポイント
他業界からM&A業界へ転職を考えている方は注意しなければいけないポイントが何点かあります。コンサルタントの業務は豊富なスキルと経験はもちろん、体力や精神力も求められると言われ、高い年収だけを期待して転職すると思わぬ落とし穴があるかもしれません。
ハードワーク
案件が進行中は常に多くの業務が舞い込んできます。仮に売却額が数十億円を超える取引では、コンサルタントのちょっとしたミスが原因で、契約が頓挫してしまうかもしれません。
そのため、活躍しているコンサルタントの多くは常に労働時間を超える残業を行っており、不測の事態にも常に対応できる状況を作らなければいけません。プライベートの時間を大切にしたい方や体力に自信がない方は、案件成約のための過酷な業務に耐えきれず退職の道を選んでしまうケースも少なくありません。
インセンティブ報酬
コンサルタントの高額な年収の多くは案件成約によるインセンティブが含まれます。そのため、ベース給として用意されている金額は他業種と比較しても大きな差はありません。仮に高い年収を獲得するために転職を考えている場合は、先述した激務に耐えられる強い精神力だけではなく、案件を成約するための営業力や実行力も求められることになります。仮に仲介会社への転職が成功した場合でも、高い年収を獲得するための道は険しいです。
業界経験
業界ではコンサルタントの経験者が少ないことから、同業他社での経験がある人材を積極的に採用する傾向があります。そのため、中途採用の少ない枠に対して、たくさんの業界経験者が応募すれば、他業種からの転職が難しくなってしまいます。
特に大手の仲介会社は各業界のトップクラスの人材が応募するため、年々転職が難しくなっています。異業種から確実に転職したいと考えている方は、比較的社歴の新しい仲介会社で経験を積んでから、大手への転職を考えてみてはいかがでしょうか。
M&A業界に転職できる人材を目指そう!
M&A業界は中小企業のニーズの増加によって近年大きく業績を伸ばしており、転職先としても注目を集めています。金融業界の人材は、仲介会社が求める経験やスキルを身につけやすいことから、転職活動で優遇される事例も多いです。
しかし、転職後にコンサルタントとして実績を残していくためには、現在の業務に従事しながらM&Aについての専門知識や経験を蓄える努力をする必要があります。転職を検討している方は、自身のスキルや経験値だけでなく、体力や精神力が通用かするかということも改めて考えてみましょう。